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PUエンジニアの一日

Honda F1のPUエンジニアを務めるクリス・ライト。レースウイークでは、どんな一日を過ごしているのか、慌ただしいスケジュールを説明してくれました。

5:45 - 起床

レースウイークの金曜日は、いつも5:45に起きます。出発するのは6:30です。朝食はサーキットでとるので、ホテルで過ごす時間はそんなに長くないんです。身支度を整えたら、サーキットへ向かいます。

カナダではレンタカーを利用して、自分たちで運転します。僕がハンドルを握りますが、1台に3人くらいで移動することが多いですね。同乗するメンバーは、僕と同じくToro Rossoを担当するPUエンジニアとシステムエンジニアです。

7:00 - サーキットへ到着

F1チームには作業禁止時間が設定されているのをご存知ですか?「カーフュー(日本語で“門限”)」と呼ばれるこのルールによって、僕らスタッフはカナダGPの金曜は朝7時より前にサーキットへ入ることを禁止されています。したがって、7時になったらすぐに現場入りできるように、各チームのスタッフはゲートに並んで待つんです。カーフューを破るとチームに迷惑をかけることになるので、みんな時間には気を付けています。

さまざまなシステムがあり、それらが正しく機能するか、センサーはすべて動くのか、想定通りに物事が進みそうかを朝一番にチェックします。

僕が働き始めたときにベテランの先輩から「俺のモットーは、“すべてをきちんと確認したら朝食へ”だ」と言われたことがあります。毎回そうやってルーティン化して動くことは大切です。チェックしてすぐに対処する項目がなければ朝食に向かいますが、もし作業が必要になった場合でも、僕らのシェフのデイブは作業後に食事を用意してくれるナイスガイです。

8:00 - PU起動

通常、チームは最初の作業としてピットストップ練習を行うので、それに影響がないよう、練習開始までに朝食を終えておきます。そして、いよいよ、PUのファイアアップ(始動)です。問題や注意点に気付くことができるよう、できるだけ早く起動をしておきたいのです。

このファイアアップが、僕らだけでなく、全員にとって優先事項で、チーム側のスタッフも何かあれば動かなければならないので、エンジンが大丈夫かというのは必要な情報です。

9:00 - プログラムミーティング

一日の中では、多くのミーティングが開かれます。その中で最初に話し合うのが、その日のプログラムについてです。ほとんどのエンジニアがインカムを通じて参加しますし、ファクトリーのミッションコントロールルームにも繋ぎます。もちろん、ドライバーにも参加してもらってFP1とFP2で僕らが何をしたいのかを伝えます。金曜のセッションは僕らにとってはテストの場でもあるので、何か新しいものを持ち込む場合にはここで試します。

このミーティングで走行プランを一通り確認するのが基本です。チームはタイヤや空力などの方にフォーカスしがちなので、PUエンジニアとしては、Hondaがどんなプログラムを実施したいのかをリマインドすることも仕事です。この場で、誰が、いつ、どんなことをする計画なのかを確認できるので、ミーティングの内容を確認できるよう、みんな必ず近くにいるようにしています。

10:00-11:30 - FP1

FP1で最初にするのがインストールラップです。マシンは木曜にパーツから組み上げられたばかりなので、まずはピットから出たらタイムを計測せずに1周してガレージへと戻ってきます。ドライバーの手で動かされ、内部の温度も上がっているので、戻ってきたらカウルなどのボディワークを外してすべてが問題ないかをチェックします。

各種センサーからのデータは問題の発見に役立ちますが、過去にはいくつかの事情により、ボディワークを外してみて初めてオイルがすべてなくなっていることに気付いたこともあったんです。

このインストールラップ中、僕はインカムをつけてPCのある席に座り、すべてのシステムの動きに集中して問題が起きていないかを確認します。ガレージではチェックできない項目もあり、例えばドライバーがフルスロットルにしたときの動きなどは、実際にやってみるまで問題発生の可能性は否定しきれません。

毎回、このときが一番緊張します。このラップが終われば、その後は既定の走行に移り、タイム計測をし始めたらエネルギーマネジメントとパフォーマンス面に集中することができます。このとき、システムエンジニアは自分の担当領域をカバーしています。

11:50 - FP1 振り返り

FP1終了後には、振り返りのミーティングをして、各スタッフが担当領域について確認します。僕の分野でテストしたことについての結果を報告したり、手を付けられていない部分についてはFP2で引き続き取り組んでほしい旨を話したりします。

ミーティングが終了したら、データに目を通し、問題がないことを確認して次のセッションで何をするかを決めます。

12:30 - 昼食

Hondaのスタッフにはお弁当(英語でもBento Boxと言います)が用意されているので、時間になったらすぐにモーターホームへ行って受け取り、自席で食べながらミーティングの内容を聞いたりデータ作業をしたりします。

一日中忙しいのですが、セッションがないときだけ少しだけ休憩できます。でも、FP1とFP2の間でも使える時間はすべて活用するので、ランチ中も手は止めません。

14:00-15:30 - FP2

FP1は、まだ路面が汚れていて、ドライバーも慣熟走行をしたりするため、予選やレース本番ほどのスピードになることはありません。ですので、多くのテストは行いません。プッシュして走ることもないので、基本的にはPUのセッティングもあまり攻めず保守的なものにします。したがって、FP2にテスト項目を詰め込む傾向があります。

FP2では、ドライバーが予選に向けた準備をするため、燃料搭載量を少なくして短い周回数のアタックも行いますが、セッションの最後にはほとんどのマシンがロングランに取り組みます。燃料を重めに積んだレースシミュレーションです。タイヤの熱入れや、スタート練習も行います。すべてが順調に機能するか、あらゆる状況で確認しなければなりません。例えば、特別なスタートモードがある場合には、それをスタート練習の際に確認します。

15:50 - FP2の振り返り

FP1のときと内容はほぼ同じです。この後には重要なエンジニアリングミーティングがあるのですが、そこで話すべき内容を検討したりすることもあります。

19:00 エンジニアリングミーティング

ここでは、ロングランとショートランのデータを見直し、自分たちの強みと弱みがどこにあるのかを分析してFP3で取り組む内容を決めます。このミーティングの間に、必要な際にはエンジン交換も行います。レースによっては金曜エンジンと呼ばれる、シーズン序盤で使用した後に交換されたエンジンを取り外し、レース用のエンジンに取り替えます(ERSはそのままです)。ミーティング中に、エンジン起動もするので、かなりの音量の中で話し合うことになります。

このエンジニアリングミーティングは、45分間の予定となっていますが、必要に応じて延長することもあります。田辺さんはこうしたミーティングにはすべて参加して内容を把握し、主にPUエンジニアに対して指示を出します。

19:00-21:00 - 夕食

モーターホームでの夕食時間はこの2時間となっているので、僕らはエンジニアリングミーティングの後に食べることにしています。いつも美味しいメニューで、日本食中心ですが好きなものを選べるビュッフェ形式なので、とても気に入っています!

20:00 - PU起動

夕食前にPUのファイアアップを終えられることはほぼありません。もし19時までに完了したら、相当いいほうです。エンジニアリングミーティングの最中になることが多いのですが、普段はファイアアップが終わるまで僕らも待っています。僕らはこの作業を終えるだけでいいのですが、チームはその後、マシンをFIAのウェイブリッジと呼ばれる重量計測器にかけることが規則で決まっているので、なるべく早く完了させられるように急いでいます。それが終わっても、チームの仕事は山積みなので…。

20:00 - Hondaミーティング

金曜の夜には、Hondaスタッフだけでのミーティングを行い、どちらか一方のチームにだけ起きている問題がないか、ある場合にそれは両チームに影響が及ぶのかを確認します。基本的には、ここで気を付けるべき事柄についても話します。

20:30 - クーリングミーティング

これがHondaにとっては金曜最後のミーティングですが、チームはまだミーティングがあります。19時45分に予定されていますが、空力担当スタッフはマシンの変更作業をしたり、FIAの対応をしたりと忙しいので、大抵は遅くなります。空力エンジニアが動けるようになったらミーティングが始まり、冷却面について話し合います。事前の予測と比較して金曜のセッションで実際にどうだったかをチームと確認したり、天気予報に合わせて変更が必要かを話し合ったりします。

23:00 - サーキットを出発

PUのファイアアップが終わるまでは帰れません。さらに、報告事項があったり細かな作業が発生したりして遅くなることがほとんどです。ただし、ここカナダは24時までにはサーキットを出ないといけません。これも“カーフュー”で定められているんです。

ここ最近は、チームよりも1時間早く、23時頃にサーキットを出ることもあります。金曜夜の僕はベッドに直行です。誰とも話すことなく、とにかく睡眠が一番です。朝6時前に起きて24時まで、飲食も含めてすべてをサーキットで過ごすので、とても長い一日になります。