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アルボンのルーキーシーズン

1年前、アレクサンダー・アルボンは、自分のキャリアがどう進むのか、見えていませんでした。それから12カ月、激動の日々が23歳の若者を待っていました。

2018年、FIA-F2選手権の最終戦を控えた時期に、アルボンはフォーミュラEへの参戦を準備していました。しかし、そこへ急きょRed Bullからのオファーが舞い込み、夢であったF1ドライバーへの道が開けたのです。

アルボンは当時を振り返り、「その時期は不確定要素が多く、どうなっていくのか分かっていませんでした。僕にとっては転換期とも言える時期で、自分がなにをしたいのかをとことん考えて判断せねばならず、それがストレスにもなっていました。不安を感じる日々でしたが、大きなステップアップをしたいと思ったし、幸いにもそれが叶ったんです」

「F2最終戦のアブダビ直前で、僕はタイトルをかけてジョージ(ラッセル)と争っていました。だから、まずはそこに集中していたし、その時点でRed Bullと話はしていたものの、その中味はシミュレーターでの走りの内容についてがほとんどでした」

その後、急速に話が進み、アルボンは2019年シーズンをScuderia Toro Rossoと契約。そして、プレシーズンテストで初めてF1マシンをドライブすることになります。その後、6月のカナダGPで話を聞いたときには、ルーキーイヤーなので一歩ずつ成長していくことに集中している様子でしたが、その姿勢はサマーブレイク明けからRed Bull Racingへ移籍することになっても変わっていません。

「正直なところ、そのころから僕の姿勢はずっと変わっていません。まだ今年は“学習の年”だと思っているんです。僕が1年目だということを忘れてしまった人も多いかもしれないけど、僕自身はまだ成長過程にいる段階だと思っています。もちろん、シーズン序盤よりは安定してきたと思いますが、シーズン半ばにはチームの移籍もありました。だから、F1で戦う自信はついてきたけど、僕自身にはまだまだ伸びしろがあると思っています」

F1ドライバーとして12戦を経験し、今季2勝を挙げたチームへ移籍。Red Bullでの初戦となったベルギーGPのパドックでは、すべてが新しい光景に見えたことでしょう。さまざまな質問を投げかけられましたが、それでもドライビングの集中しようとしたと言います。

「いろいろな雑音をシャットアウトしてレースに集中したかったので、複雑な気分でした。でも、当然、メディアをはじめとして多くの人が僕の話を聞きたいだろうし、Red Bullとしても露出を増やしたいという意図があるのも分かっていました。だから、ストレスはすごく感じましたね」

「移籍直後のベルギーGP日曜日、5位フィニッシュという結果を手にして、あまり多くを語らずドライビングに集中してよかったと思いました。それまで僕じゃなくてダニー(クビアト)のほうがRed Bullにふさわしいのでは、と言う人もいましたから、少なくともこの結果は及第点だし、僕を選んだことは間違っていなかったと言えるなと感じていたんです。ストレスを感じるレースウイークでしたが、結果が出せたことはとてもうれしかったですね」

ルーキードライバーが自信を持つまでには、時間がかかるものです。アルボンは、その穏やかな語り口とは裏腹に、強い自信を内に秘めており、いち早く成長していくためにRed Bullに対してもきちんと要求を出す一面もあります。その結果、5戦連続トップ6フィニッシュという成績を残すことができています。

「チームには、できるだけ自由な時間が欲しいと訴えたんです。もちろん、メディア対応はたくさんありますが、僕はレースで結果を出したかったし、それが自分に必要だというのも分かっていました。だから、それ以外のことは重要ではなかったんです」

「ストレスの溜まる日々が続きました。でも、そこから僕の考え方も少しずつ変化して、これはチャンスだし、失うものはなにもないじゃないかと思うようになってきました。以前は、『もしうまくいかなかったら、ダメなんだ』と思っていましたが、最近は、それが正しいかは別として、『もしうまくいかなくても、またばん回すればいいんだ』と考えています」

「僕にとってはすべてがつながっていて、フォーミュラEでもToro Rossoでもシーズン前にやることは同じだと感じて、すごく冷静でいられました。いつも自分に『準備はいいか? 大丈夫か?』と問いかけています。でも、こうした姿勢を常に心がけてきたので、自分に対して『ここまでよくやってきたし、大丈夫だ。どうなるか様子を見ていこう』と答えられています」

ここまですべてが順調に進んできたわけではありません。ロシアGPの予選ではクラッシュを喫し、今回のメキシコでもまたクラッシュ。しかし、アルボンはF1での経験を積み重ねていく中で、こうしたエラーから学んでいくことが大切だと考えています。

「ロシアのクラッシュは愚かなミスでしたが、チームは対応してくれました。もちろん、クラッシュがうれしいわけがありませんが、攻めた上でのクラッシュだったと分かってくれているし、それまでのペースもよかったので、大きな問題にはなりません。もし僕が遅くてさらにクラッシュしていたら話になりませんが、これも成長過程の一部です」

「コースインしてすぐハードにプッシュするのが好きです。Q1でまず頭に浮かんだのはロシアの予選のクラッシュでした。同じミスをするわけにはいかなかったので、最初のアタックラップは少し抑えめで入り、徐々に上げていきました。Red Bullのようなチームでは常にQ3進出が求められるので、ここまで得た経験や知識をもとに、走りを構築していかなければなりません」

「今回のメキシコGPのFP2では、縁石で少しワイドになりすぎてリアのグリップを失ってしまいました。現代のマシンは一度滑ると、急激に向きが変化してしまうので、立て直せませんでした。馬鹿げたミスでしたし、その代償は大きいです」

アルボンは、ロシアでの経験を活かして日本GPに臨み、Q3ではマックス・フェルスタッペンと同タイムを記録。急成長していることを証明してみせました。

「たとえ1000分の1秒でも上回れればうれしいですよね。でも、結果はよかったですし、FP1からいい手応えがありました。マシンの感触に満足できていたので、向上していくことができました。こうした流れが残りのレースでも必要ですね」

日本GPでキャリアベストの4位フィニッシュを果たしたものの、トップ3との差や、フェルスタッペンがシャルル・ルクレール(フェラーリ)との接触によってリタイアした上での結果であることも考えると、自身のパフォーマンスについて厳しく評価しなければならないと考えています。

「正直、レースよりも予選のほうが自信になりました。レースでは先頭集団にもっと近づきたかったですね。自分がうまくやれているとは思いますが、やはりトップ争いに加わりたいです。ここ数戦はチーム全体で競争力が発揮できていないのでしょうがない部分もありますが、レースは及第点でした。もちろん、マックスとシャルルがクラッシュしての結果であることは分かっていますし、自信を深めた部分がある一方で、改善点も認識しました」

移籍後6戦が終わり、残りは3戦です。アルボンは、Red Bullへの残留を目標としながらも、表彰台や優勝を目指す姿勢も失っていません。

「当然ながら、来年のシート獲得が目標です。一方で、それを決定づけることができるような結果を出したいと思っています。だから、一戦ごとに集中しています。レースでの結果がよければ来年に向けたチャンスが増えるわけですから、このまま学び続けてトライをやめず、トップグループにチャレンジしていきたいです」

1年目にしてすばらしい成長曲線を描いているアルボン。そう遠くない日に、ポディウムでトロフィーを受け取り、シャンパンファイトを繰り広げる姿が見られるかもしれません。