Honda Insights - レーシングスピリット

フェルナンド・アロンソが、ヘルメットのバイザーを下げて走り出す前に、コックピットから鋭い視線で前方を見据えるのは、どのグランプリ、どのサーキットでもお馴染みの光景になっています。

しかし、その日は少し違いました。フェルナンドのほかには周りに1台のマシンもいません。インディカー・シリーズでのデビューが決まっている彼は、5月28日(日)に行われるインディ500に向けた準備のために、先日インディアナポリス・モーター・スピードウェイでテスト走行を行いました。 彼は35歳になった今でも、レースの中では常にベストを尽くしています。McLaren-HondaのMCL32、McLaren-Honda-Andrettiのダラーラ IR-12、そしてゴーカート……。どのマシンに乗ろうと、より速く走るように競争心が彼をかき立てます。

「人間はみんな生まれつき負けず嫌いなんだ。特にスポーツマンは、新しいことに挑戦し、夢を追い続けるものだと思うよ」とフェルナンドは語ります。

「さまざまなキャリアの過程で異なる目標があるけど、これから走るレースで負けようと思ってバイザーを下げるドライバーはいない。そのような瞬間は僕のレースの中での日常であり、いつも競争心を持ってレースに挑むんだ。それはF1だけじゃない。もし僕が今日の午後にテニスの試合をしたら、それがグランドスラムの決勝のつもりでプレーするつもりさ。僕は自分がやることすべてで勝ちたいと思っているし、それが一番のモチベーションなんだ」

フェルナンドとHondaの繋がりの強さは、その歴史が物語っています。彼が最初に手にしたMcLaren-Hondaカラーのゴーカートに乗っていた時期は、彼にとって非常に重要なものだったと言います。

「僕がF1にデビューする前、ゴーカートでは印象に残る出来事がたくさんあったんだ。ゴーカートの世界でたくさんの年月を過ごしたし、それは僕の中でもベストな時期だった。僕はまだ子どもで、ほかの子どもたちと、いろんな国のさまざまなサーキットで競走した。1996年にはゴーカートの世界選手権で優勝したんだけど、それがF1以前のベストキャリアだったと思う」

彼が引き付けられたのは、McLarenとHondaという真のレーシング・チームが手を組み、常勝街道への復帰を目指すという新たなアプローチ。現状に留まらずチャレンジし続けることは、彼がキャリアのはじめから続けてきたことです。今の彼にとってのチャレンジは、F1で勝つことなのです。

「子供のころは、特に憧れのドライバーはいなかったんだ。その頃のスペインでは、モータースポーツはメジャーじゃなかったし、人気もなかった。だから僕も自転車競技やサッカーで憧れの選手はいたけど、モータースポーツにはいなかった。だけど、僕のゴーカートでのキャリア終盤には、アイルトン・セナとミハエル・シューマッハが強くて、モータースポーツで憧れのドライバーと言えば彼らだった」

もちろん、今ではフェルナンド自身が、若いドライバーたちがモータースポーツで頂点を目指すきっかけとなる、憧れの選手です。F1で彼と競い合っているカルロス・サインツJr.も、フェルナンドを憧れのドライバーだと言います。彼がインディ500でチャレンジすることが、多くの若いドライバーを挑戦することへ駆り立てるでしょう。

プロドライバーを目指す子どもにとって、はじめの一歩はゴーカートです。フェルナンドのカートスクールは、そうした子どもたちをさらに上位のカテゴリーへ導くのに役立っています。

「僕は、常々モータースポーツになにかを還元することが重要だと思っているんだ。これまでF1で多くの成功を収めてきた。プロのドライバーになってキャリアを積み、このスポーツを楽しむことができて、本当に幸せなんだ」

「だから、いま自分の持っている知識や経験をもとに、スペインのカート場や記念館、スクールなどの施設を通じて、モータースポーツで成功できる才能があるのにどこでなにをすればいいのかが分からない子どもたちを支援できればと思っているよ。そこに来てもらえれば、カートで最高レベルのパフォーマンスを発揮するために必要なものはすべて揃っているんだ。もし才能があれば、トップレベルに到達する助けになるだろうね」

フェルナンドがエントリーレベルで才能の原石を発掘すべく活動している一方で、Hondaは、ヤングドライバープログラムを通じて、その上の世代への支援を行っています。情熱あふれるドライバーにとって、そうした支援の手は、世界最高レベルで戦うという夢を実現するための大きな助けになるでしょう。

今年は、FIA F3ヨーロッパ選手権に牧野任祐、GP3シリーズに福住仁嶺、そしてFIA F2選手権に松下信治が参戦。今週末のスペインGPでは、GP3とF2が併催されます。また、McLarenのヤングドライバープログラムに参加するメンバーの中で最年長となった松下は、シミュレーターでフェルナンドの駆る「MCL32」の開発に参加しています。

本田宗一郎は、「レースはやらなければならない」と語っていました。レースによって、自分たちの力量や技術水準が世界のどのくらいにあるかを知ることができ、トップになるにはなにが必要で、どこが限界なのかが分かる、という考えからです。 その精神は2度の世界チャンピオンに輝いたフェルナンドにも共通しており、先日彼が参加したインディのテストはそれを完璧に体現していたといっても過言ではありません。

「僕にとって、魅力的かつ最大の挑戦は、インディカーのマシンとオーバルコース、そしてドライブするためのテクニックは、F1とどう違うのかを知ることだよ。だから、いま僕の目の前にある壁に、とても魅力を感じるんだ。F1では、エンジンがV10からV8、V6になり、タイヤもミシュランからブリヂストン、ピレリに移り変わったけど、僕は年々変わる環境に素早く適応し、いつも競争力を発揮してきたドライバーだからね」

「全く違うカテゴリー、そして環境も異なる中で、自分になにができるかを知ることができるのも、また挑戦なんだ。そこへ行くことで、自身を成長させられると思うよ」

今週末、バルセロナのカタルニア・サーキットに集まる大勢の地元ファンの前でレースをしたあとには、インディアナポリスでの挑戦が待っています。これは特別なことなのでしょうか? もちろんそうですが、フェルナンドにとっては、一度GOサインが出れば、どんな場所であっても、これまでと同様に不屈の精神で闘うのみです。それが、どのサーキットでも、どんなマシンでも、どんなレースでも――。

彼は、現在進行形で、真のレーシングスピリットを見せてくれています。