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STR13 shell having been unloaded

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F1を支える物流担当の力

F1はトップクラスのスポーツ。時速300km以上で走る最先端のマシンが、世界各地21か所のサーキットで熱戦を繰り広げます。

F1は壮大な“ショー"でもあります。隔週でそのショーを行うには、チームワーク、プランニング、努力が必要です。さらに今回のバーレーンと中国のように、2週連続でレースが開催されることもあります。そんな中、レースを支える物流において最もチャレンジングなのが、ヨーロッパ以外の場所で行われるレース、通称“フライアウェイ"です。

フライアウェイ・レースは、パワーユニット(PU)本体や各種パーツ、PUのメンテナンスに必要な様々な特殊工具に加えて、チームホスピタリティに使用する設備など、F1のレースを開催するために必要なあらゆる機材を、陸路で運ぶことができません。そのため、空路や海路でそれらの機材を開催地に届ける必要があります。

昨年も本コラムに登場したHonda F1物流マネージャーであるグレアム・スミスが、今回バーレーンから中国へ機材を運ぶのに、どれ程の作業が必要かを話してくれました。

「2017年までは、中国GPの後にバーレーンGPというスケジュールでしたが、2018年はバーレーンGPの後に中国GPという逆のスケジュールに変更になりました。ただ、開幕戦が行われるオーストラリアから第2戦バーレーンへの運送は特に問題にはなりませんでした。機材は直接、オーストラリアからバーレーンに届きます。我々は本拠地であるイギリスへ一度戻り、何日か経ったあとでバーレーンに行き、届いた機材の整理を行います。いつものスケジュールとなんら変わりません」スミスはこう説明します。

「ただ、夜に行われたバーレーンでの決勝レースが終わったあとは目が回るような忙しさでした。非常に短い時間で機材をここ上海へ運送しなければならず、大急ぎで作業を終える必要があったからです」

The Toro Rosso-Honda under the lights of Bahrain

「バーレーンでのレースが終わったあと、我々は午前0時までに作業を終えるよう言われていました。しかし、バーレーンGPはトワイライトレースなので、レースが終わるのは午後8時。どう頑張っても時間に間に合うわけがなく、実際に作業が完了したのは午前2時か3時でした。ほかのチームも同様でしたね」

「上海への特別チャーター便が午前7時のフライトだったので、我々は午前5時15分にはバーレーンのホテルをチェックアウトしなくてはなりませんでした。ホテルに戻ってもゆっくり休む時間はなく、短いシャワーを浴びるのが精一杯ですよ(笑)。45分ほどの短い仮眠をとり、中国のホテルには月曜日の夜10時半ごろに到着しました」

「火曜日は、機材の整理を行うため、午前10時に上海インターナショナル・サーキットに入りました。なかなか貨物が到着せず、実際に作業に取り掛かれたのは夕方4時ごろでしたね。機材を5時までに整理し終えると、メカニックたちが機材のメンテナンス作業を夜の9時ごろまで行い、それからホテルに戻りました。レース週末にチームメンバーが食事をとるチームホスピタリティがまだ設営中だったため、その場しのぎの食事で我慢しなくてはならず、これも大変でしたね」

スミスが言及していた船便は、イギリスから上海への直行便です。開幕戦を含むシーズン最初の4戦が開催される土地へ、それぞれレース用の機材が届けられるようになっています。

「中国GP用の機材は、1月末にイギリスを出発しています。オーストラリアGP用のものは一番早く、1月初週に出発しています。バーレーンGP用の機材は2月の初週で、アゼルバイジャンGP用の機材は2月の2週目。船便は、機材が届くのにかなり時間がかかるので、前もって送っておく必要があるのです」

「船便では重量のある機材を運びます。エンジン用とERS用の2つのクリーンルーム(作業用の小さなブース)、ケーブル、エンジンリフター、エアコンなど、ガレージに必要な機材です。そして、スペアパーツなどは航空便で運ぶことになります。」

A Plane flies over the STR13

PU本体とその関連部品はもう少し頻繁、且つフレキシブルに輸送されていて、通常は前戦の開催地から飛行機で次戦開催地へと空輸されます。

「船便で運ぶ機材は輸送に時間がかかります。シーズン前半にはオーストラリア、中国、バーレーン、カナダという4つのフライアウェイ・レースがあるので、フライアウェイ用の機材を何セットか用意しなくてはなりません。そのほとんどは1セットで2レースを使うという形の運用です。第七戦のカナダには開幕戦のオーストラリアで使用した機材を船便で直接輸送しますが、その他のセットはすべて一旦イギリスへ戻します」

「それ以外のフライアウェイレースとなると、シーズン最後の7レース、シンガポール、ロシア、日本、米国、メキシコ、ブラジル、アブダビになります。最初の四戦にはそれぞれ別の機材セットを船便で輸送します。そしてそのラスト三戦には最初の4戦で使用した機材を使う形になるので、それぞれのセットによって使用回数が異なってきます。その間にも航空便で毎戦PUなどを輸送します」

航空便で運ぶ機材の多くは、ピットで使用する設備や工具で、開幕戦から毎戦使用されることになります。各チームとパワーユニットマニファクチャラーは、それぞれ優先的に空輸可能なパレット数量が運営側から割り振られており、それらの枠を利用して各会場に毎戦使用する機材を空輸します。スミスはそれを会場で受け取り、設営を始めます。

「そうした作業を管理しているのは、F1の主催者であるフォーミュラ・ワン・マネージメントと、配送会社のDHLです。彼らが、機材を積んだ便のフライト時間や、機材が到着する時間を連絡してくれます。いつもHonda F1レースチームの拠点であるミルトン・キーズからほど近いイースト・ミッドランズ空港を利用していますが、我々は、機材が到着する時間から逆算して作業を進めます」

「日本のHRD Sakuraからパワーユニットをサーキットに送るときも同様で、HRD Sakuraとは、配送状況を常に共有しています。DHLからの機材到着が遅れそうな場合には、HRD Sakuraからサーキットに直接、代わりの機材を送ることもあります。」

Body work covering the Honda Engine

パワーユニットは空路で運ばれますが、消耗品交換などのメンテナンスを実施する必要があるので、ほかの機材よりも頻繁に移動します。その場合はミルトン・キーズやHRD Sakuraへ戻すのが通常ですが、時間的に厳しい場合などは、サーキットでメンテナンスをすることもあります。

「機材が到着すると、パレットやコンテナからすべての機材を取り出すために、チームメンバー6人ほどで急いで作業を行います。機材を取り出したら、メカニックが使いやすいように整理して、ガレージに配置します。それから彼らはエンジンの準備に取り掛かり、メンテンナス等の必要な作業を行うんです。そういった作業は水曜日まで続きます」

「特に時間がなかった今回は、チームメンバーに加え、開梱と設営作業のために日本から4人のメカニックを派遣してもらったおかげで、作業が少し楽になりました。時間の制限があるため、人手を増やす必要があるんです」

連戦なので、スミスとチームメンバーは、月曜日遅くに到着し、限られた時間内ですべての作業を完了させる必要がありました。通常の業務も含めると、7連勤することになります。

「月曜日をフルに使える状況であれば、私ひとりでもかなり作業を進めることができます。火曜日になるとメカニックがいくらか残った作業を行い、水曜日になると、本格的にエンジンの準備を始めるためエンジニアが働き始めます」

「月曜日と火曜日は終日作業を進めなければなりません。水曜日は少しイレギュラーな一日になるかもしれませんが、木曜日にはすべての作業を終えていなければいけません。それからホスピタリティの中にあるオフィスで次戦に向けた計画を練ります。それから、帰れるチャンスがある内にオフィスを出ます(笑)」

The STR13 wing under protective netting

「レースを終えた日曜には全てを終えてサーキットを出ます。ただ、そこからさらに税関用に必要な書類を作ることがあります。時折レース前の金曜日までに提出することもありますが、十中八九はレース後になります。危険品などを含む機材を船便や航空便で運ぶのには、多くの書類が必要になりますからね」

Honda F1の物流マネージャーとして、すべての機材があるべきタイミングで正しい場所にあるよう、日夜を問わず業務を進めるスミス。これからの数日をどう過ごすのでしょうか?

「レースが終わったらイギリスに戻り、数日間の休暇を取ります。その後の日曜日には、次のレース開催地であるアゼルバイジャンに向けて、再び飛び立たなくてはなりません」

レースはまだまだ続きます。